小さいころは犬が怖かった。大きな声で吠えるし、噛むのである。これは祖父母の家の犬が原因だ。柴犬のような毛並みの雑種で誰彼かまわず吠える。しかも目の前で従兄弟が噛まれたのを見てしまったから幼稚園児だった自分は犬が怖くて怖くてたまらなかった。
ところが小学校に上がり友人宅へ遊びに行くようになると驚いた。まず犬の種類が様々あるということすら初めて知った。友人宅は小型犬ばかりだったのだ。一人はミニチュアシュナウザー、もう一人はトイプードルを買っていた。シュナウザーの方は来客に対してきちんと番犬としての役割を果たしていた。つまり吠えるのである。だから私は苦手であった。

ところがトイプードルは違った。吠えはするのだがいかにも子犬らしい、可愛らしい声で鳴くのだ。私が友人宅へ遊びに行くといかにも歓迎しているという様子で、きゃんきゃんと鳴きながら部屋の中を跳ね回るのだ。しつけもきちんとされていたのだろう、噛むような素振りを見せることもなくただ鳴き声の出るぬいぐるみが動き回っているだけのような、そんな可愛らしさがあった。私はそのトイプードルだけは同じ部屋にいても全く怖くなかったし触ることができた。
次第にミニチュアシュナウザーの方も怖いとは思わなくなった。最初に会ったときは盛んに吠えられるのだが友人だと分かると大人しく、また触らせてくれた。シュナウザーは手入れが行き届いていつも触り心地が良かったことを覚えている。

祖父母宅の犬は私が犬に慣れはじめた頃に死んでしまった。犬は私の父と兄にだけ懐いていたので二人はとても悲しんだ。祖父母は番犬としてその犬を飼い始めたもののあまり遊んでやることはなかったので、散歩やキャッチボールをしてあげた父と兄にはとてもよく懐いたのだそうだ。
友人宅の犬たちがあんなに可愛かったのはきちんと愛情を注がれていたからなんだろうと初めて分かったような気持ちだった。やはり犬も人間と同じく愛情を持って接することが出来なければ飼ってはいけないのだ。